巻頭言【春来草自生】 吉田昭久
平成十三年(二〇〇一年)三月、社会福祉法人光風会を設立し、同年四月の精神障害者地域生活支援センター「風(FOO)」の事業展開から丸四年が経過しました。丸四年の経過を長いとするか短いとするかは視点によって異なりますが、少なくとも順風満帆とは言えず、大学研究室を根城として仕事をしていた時に比べ、日月逾邁を感得せざるを得ぬ日々であったことは確かなところです。
「風(FOO)」では利用者をユーザーと呼んでいますが、第一号登録の女性ユーザーが、三月中旬がんで亡くなりました。彼女ががんを患っていることは承知の上の支援でした。この四年間に彼女は「風(FOO)」を居場所とし、「お針子さん」というパッチワーククラブの責任者を務め、年長者の一人だったためか、他のユーザーの相談相手となり四年間を過したのです。この間「風(FOO)」の全スタッフは彼女の死の床までも丁寧に対処しました。
「風(FOO)」の庭のたくさんの樹木は芽吹き始め、草花はいろんな花を咲かせています。その生長の速さに驚かされます。亡くなった彼女は花が好きで、この季節は心安らぐ「とき」だったようです。彼女の亡くなった日、好きだった二鉢の君子蘭がみごとな大きな花をつけました。あたかも彼女の再生のように。光風会では登録者ナンバーはユーザーが退所したような場合でも補填しませんから、彼女の登録者ナンバー「一」は永久欠番となるわけです。
ところで、一昨年の暮から支援としてかかわって来た一人の病者が、この四月十三日(日)に、これからの人生の「共同の生活者」との生活を始めました。「けじめ」を付けるための儀式を沖縄へ行って挙行したのです。たまたま連絡確認の電話をしたら沖縄にいたというわけです。むろん彼女の「旅立ち」のことは承知していました。どんな所でどんな形式で誰を集めて儀式を行ったかは不明ですが、双方の親と同胞四・五人参列のものだったようです。相手は彼女が病気であることを知っています。彼の母親もまたそれを知っていて二人の共同生活の開始を承認しています。
コンピュータプログラマーの彼女は一昨年の暮、人間関係のもつれに起因する錯乱状態となりました。頭脳明晰、頑張り屋の彼女に対する支援方略は、「頑張らない人生を生きる」ということの気づきを生み出すことでした。彼女の家族全員に対する支援の課題も、決して叱咤激励しないというものでした。彼女にとって有効な支援が出来たのか内心忸怩たる思いがありますが、とにもかくにも彼女が自分の人生を一歩踏み出したことは確かです。
この四年間に「風(FOO)」の他、二〇〇四年からは精神障害者小規模授産施設笠間焼工房「陽(yoo)」を展開し、ここでも病者と関わって、支援「する側」と「される側」との関係性のあり方を考えて来ました。四年たった今もまだ継続して模索中です。利用者共通の課題として、人間のあり方に必然的な依存性の問題にネガティブな意味で根源があると気づいて来ています。「する」側と「される」側との関係を超えることは、支援を課題とする仕事では、かなり緊張感を持って臨まなければならないことです。人が人を支えるということは、それぞれの人が、自らその人の力・力量を出せるような支援、叱咤や激励ではない支援が目指されなくてはならないと気づいて来ています。
自然のなかに生成する樹木草花が、まさしく「適当な」環境で芽を出し、花を咲かせるように、人のあり様もまた、「適当な」条件の付与の下で、それぞれに開花すると確信することが、支援「する側」に必要なのだと考えています。
特集 個人情報
二〇〇五年四月一日個人情報保護法が施行されました。花信風春号ではこの法律に絡む問題を光風会の事業の視点から特集します。(編集部)
質問です!個人情報はプライバシー情報のことである?
皆さんは、「○」と答えますか「×」と答えますか。
ちなみに、私は間違えました。答えは「×」です。これまで多くの人は、個人情報すなわちプライバシー情報という考え方をしてきました。それでは、どのように違うのでしょうか。
プライバシー情報とは、「個人の私生活上の事実に関する情報」「まだ社会一般の人しか知らない情報」「一般人なら公開を望まない内容の情報」です。これに対して、個人情報は私生活上の情報かどうかに関係ありません。電話帳掲載情報のように、すでに人々が知っている情報であっても、個人情報に当ります。さらに、「公開を望むのかどうか」や「公開によって個人が受ける心理的な負担の有無」とも関係がありません。個人情報は、「生存する個人に関する情報で特定の個人を識別できるもの」です。名前、住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード番号等で、コンピューター処理されているものだけでなく、メモ書きや名刺も該当します。
さて、個人情報を取り扱う「個人情報取扱事業所」とは、過去六ヵ月間に5千人を越える個人情報を整理した状態で扱ったことがある企業・団体のことです。ボランティア団体やNPOも含まれる場合があります。こうした事業所は、個人情報を本人から書面で直接入手する際は利用目的を明示し、当初の目的以外で利用する場合は本人の同意を得ることが義務付けられました。私が住むアパートのガス会社からも、四月早々に「個人情報の取扱いについてのお知らせ」というチラシが届きました。そこには、個人情報の開示、訂正、追加、削除、利用停止等、それぞれについて、私の問い合わせを会社側が受けるとなっていました。
このお知らせを見て、各人が自分の情報の扱われ方について自分で判断してくださいと、書面をもって言われることに少々戸惑いを感じました。車の任意保険加入についても、詳細をほとんど読まずに、手続きをしてくれるその人を信頼してお任せしてきました。そんな私ですから、こんなことが日常茶飯事になるとは、内心大変なことが始まったなと思っています。
今まで漠然としていた「自己選択・自己決定・自己責任」がいよいよ身近な課題になってきました。自分の選択した行為がどのような結果を生むのか想像がつかない怖さを感じます。なぜなら、特別な契約を結ぶことならばいざ知らず、地域で日常生活を送る上で、ポストに入ってきたチラシ一枚にもきちんと目を通し判断するといった「自己決定」を求められることになったからです。書面を見たかどうかは、自分自身の問題となるのです。
それでは、地域で暮らす「自己決定」の意思表示が難しい高齢者や知的障害者、精神障害者等の人たちの人権は擁護できるのでしょうか。場合によっては、郵送物やチラシまでを毎日チェックするといった細かい援助・支援が必要になる人もいます。こうした個人の生活への介入は、収容施設と変わりない管理を、地域の中でつくり出すことにもなりかねません。個人情報保護法という「保護」が「自己決定」を前提に実行されることは、保護するという美名のもとに、「弱者」とされる人たちの活動や行動を制限し、差別を助長することになるのです。精神福祉における私たちの地域生活支援のあり方が問われるのです。
(高島 真澄)
参考一
「個人情報保護・これだけは知っておきたい」岡村久道、鈴木正朝、日本経済新聞社、二〇〇五年二月
参考二
毎日新聞(夕刊)二〇〇五年四月六日(水)、二版「暮らしWORLD」個人情報保護法・身近な生活にどう関わるか
関係機関との連携と個人情報
地域生活支援センターが関係機関と連携する際、その中味の殆どが個人情報のやりとりと言っても過言ではありません。それは連携する必要性そのものが利用者の個人情報に基づいているからです。精神障害者への生活支援には、複数の関係機関が連携し合うことが必要となります。連携には個人情報のやりとりが不可欠である以上、個人情報保護法の下では「本人の同意確認」を中心とした綿密な手続きの策定が急務となってきます。
以下に、生活支援センター「風(FOO)」業務における関係機関との連携場面と、その際の今後の注意すべき点について整理しました。
一.ユーザー登録に関する事務上の課題
(一) 登録審査に当たって、対象者の生育歴・病歴等の情報について医療・他福祉機関から取得
(二) 登録に際し、対象者の主治医から意見書提出
「風(FOO)」では、登録審査に際して、事前に対象者の医療経過、他機関での経過等を情報収集してきました。従来は対象機関を訪問し、面談して情報を得ることについて、自筆署名で登録希望者から承諾を得ていました。今後は個人情報保護法の指針に従い、以下の手続きを速やかに追加する必要があります。
1.あらかじめ、情報取得の理由と目的を本人に提示し、同意文書を作成
2.情報取得目的に照らして、個人情報の取得に対象者が同意する範囲を明確化
3.最終的に個人情報取得に関する同意書への自筆署名による確認
4.取得した情報について、当該対象者からの問い合わせに応じる手続きの明示
これらの文書を関係機関に提示して、登録希望者に関する個人情報を取得することになります。
二.登録後のユーザーに関する課題
(一)「風(FOO)」の対外活動の一環としてのユーザー個人発表等における他機関への情報提供
(二)ユーザーの依頼による外来同行受診及び他機関との連携
(三)ユーザー依頼によらない主治医等との面談及び他機関との連携
(四)光風会の活動紹介における写真提供
(五)光風会から他の福祉機関・医療機関等への移籍変更に伴い当該機関から請求された情報提供
(六)ユーザー死亡時の福祉機関・医療機関との連携
(七)緊急対応時の関係機関との連携
(八)その他、必要に応じた他機関からの情報取得と他機関への情報提供
光風会は、これまでこうした場面や事態においては、本人への口頭確認と了承を得ることを行ってきました。
今後は、基本的に緊急時以外は全て、目的と範囲を明確化した同意文書を本人から得ることが必要になります。
また、個々人の同意とは別に、次のような注意事項が生じることになります。
1.他機関からの情報提供要請に応じて個人情報を提供することがある
2.どの様な形式と種類の情報を提供するか
3.情報提供の停止方法等についての問い合わせの可能性
これらのことは、掲示等の手段により、「本人が容易に知り得る状態」におくことが必然となります。
現在、「風(FOO)」ではこれらに必要な同意書その他の書面を準備・作成中です。
三.その他の個人情報
(一)登録希望見学者、登録途上者、契約終了者に関する個人情報
(二)未登録者の個人情報
(三)スタッフ等の個人情報
これらについては、従来も情報提供の対象者とはしてきませんでした。今後も本人の同意が得られない個人情報データは、情報提供の対象にしないことが確認されるべきです。
(鈴木 宗夫)
世間話と個人情報
四月より施行された個人情報保護法によって、今まで気にもしていなかったようなことでも、法に反してしまうことが起こり得るようになりました。
法の施行により、買い物の時にポイントカードの住所や氏名などを記入することがなくなったり、レンタル店で客が記入したものをパソコンに入力した後は、すぐに用紙を破棄したりと様々な対策をとっている企業があるようです。そして、個人情報には目に見える形のものだけではなく、噂話から情報が漏れることも法の対象となり得ます。
私が部屋で寝ていると、朝早くから近所のおばさんたちの世間話が聞こえてきます。
「〇〇さんの娘さんが××らしいわよ」
「隣の△△さんが夫婦喧嘩してたのよー」
など、私にとってはどうでもいい話なので静かにして欲しいと思うのですが、近所のおばさんたちにとっては、どうでもいい話しではないようで、このような世間話が度々聞こえてきます。このような世間話は、居酒屋、病院の待合室、スーパーマーケット、職場など、日常生活の様々な場所で耳にすることがあります。普段気にも留めないような話も、法が施行された今日は注意しなければいけないようになりました。
精神障害者の中には、世間話が苦手で出来ないと悩んでいる方が多くいます。
「天気や季節の話をすればいいんだけど、会うたびにいつも天気の話ではおかしくないかな」
「天気の話だけではすぐに会話が終わってしまう」
と、こういう話をユーザーは世間話だと思っています。また、何を話したらいいのか、さしさわりのない話とはどの様な話なのかが分からない人がいます。
確かに、初対面や会う機会の少ない人に会った時、どの様な会話をしたら良いのか分からず戸惑うことがあります。精神障害を持つ人たちは、私たち以上に戸惑いがあるようです。
世間話というのは、話している本人にとっては単なる世間話でも、聞き手によっては個人情報の暴露と受け止めてしまうことがあります。今後、個人情報保護法のしばりが強くなっていけば、単なる世間話でも「個人情報に触れるのではないか」という恐れから、何を話して良いのか分からなくなってしまうことも起こるでしょう。世間話が苦手な精神障害者だけではなく、誰もが世間話さえ、気軽に出来なくなるような状況になっていくのではないかと考えます。
急速にIT化が進み、携帯電話で写真や動画が送れたり、インターネットが日常生活で頻繁に使われ、さらにテレビ付き電話などの機能が充実してきています。便利だけれども、容易に情報漏れにつながる機能だと考えます。便利になりすぎたところで、詐欺・架空請求・プロバイダーの誤処理といった新たな問題も発生するでしょう。十年、二十年後、カラオケBOXのような密室でなければ世間話すら出来なくなり、喫茶店も個室化が当たり前の時代が来るのかもれません。(出澤 華奈子)
児童虐待と通告〜個人情報との関連において〜
児童虐待への対応は、虐待が行われているのではないかという旨の通告によって開始されます。
児童福祉法第二十五条は、「保護者のいない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見したものは、これを福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。(以下略)」
と規定しています。
通告については、児童虐待防止法第6条において、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに通告しなければならない。」と規定しています。通告を受けた児童相談所は「子どもの安全を守る」ことを最優先に調査を開始します。もちろん、緊急性の高い場合には直ちに子どもの安全確保が行われます。通告は学校、幼稚園、保育所、警察、病院、近隣知人等と様々なところから届けられます。子ども本人から訴えられることもあれば、「虐待しそうだ」と保護者自ら相談することもあります。
ところで、「通告」という言葉には何か仰々しい響きがあります。実際は「相談」とか「連絡」という意味に理解して良いという事になっています。ところが、自分が「通告者」や「密告者」として明らかになることを恐れて、通告をためらうことになるのです。
もちろん、通告した者を特定するような情報は漏らさないことが児童虐待防止法第七条 で規定されています。通告が近隣知人によって行われた場合などは、誰が「通告者」かわかってしまうことがあるので、特に慎重な配慮が必要です。虐待の多くは家庭内で、子どもの保護者によって行われています。それを身近に察知し得る近隣知人の通告からの情報は重要です。しかし、虐待事件の報道によると、近隣者が気づいていたけれども通告していなかったという実態があります。守られていたかもしれない尊い命を思うと、歯がゆい思いをすることが少なくありません。通告することへの壁が取り払われることは、より多くの子どもが守られることにつながります。
一方、「最近の若いお母さんはしつけが出来ない」という声を良く聞きます。幼い子どもは自分の要求を通すために泣いて駄々をこねることがあります。泣くたびに要求を通してしまうと、言い聞かせたり、我慢させたりする親としてのしつけができません。泣いても要求は通らないという体験を、親は子どもにさせることも必要です。しかし、相談場面で母親の話を聞いていると、しつけがしにくい世の中でもあるようです。「スーパーで駄々をこねる子どもを少しきつく叱ったり、家の中でも大声で泣かせたりすると、周囲に『虐待している』と思われそうで出来ない」という声を聞きます。
実際にはしつけのレベルであっても、周囲が「虐待では」という疑いを持つことに敏感になっているとしたら、通告が誤報である場合も起り得ます。その際、「虐待をする親」といった誤った情報が流布するとすれば、親本人のみならず、何より子ども自身の人権が侵害されることになります。通告においては、このような人権についての配慮を社会的に周知させることが課題となります。現状においてはこれに関する法的な措置は不十分です。
児童福祉法の改正によって、この4月から児童虐待の通告窓口がこれまでの児童相談所のみならず、市町村、福祉事務所にも置かれるようになりました。窓口が身近になることで通告のハードルが低くなり、子どもの安全が守られる機会が増えたと言えるでしょう。
しかし、情報を共有する機関が身近になり、増えれば増えるほど、個人情報の管理や取り扱いについて慎重さが求められます。
窓口である行政機関の各担当者は、子どもを守るという視点だけではなく、虐待者である親への支援の必要性を認識する必要があります。児童虐待に関わる個人情報の保護においては、加害者の情報も守られるべきであるという認識を共有することが必要でしょう。
(高橋 寿子)
「風(FOO)」
精神疾患・精神障害を持つ当事者の話を聞いたことありますか?
歌手の円広志氏がパニック障害を、俳優の竹脇無我氏がうつ病を持っていることをテレビや本をとおして自ら明らかにしたことは有名です。
公表すること=カミングアウトとは言えませんが、「有名人」が自分の精神疾患を公表することで「誰でもかかりうる病気」として精神疾患が認識される端緒になると思います。
さて、今号の理事長巻頭言に書かれている亡くなったユーザーのTさんは、茨城県におけるカミングアウトの先鞭をつけた人といっても過言ではありません。だからこそ、本当はあの世まで行って本人の承諾をとって氏名を載せたいところですが、残念ながらそうはいきません。また、個人情報保護の観点からも、亡くなった方の情報であっても、慎重に取り扱わなければなりません。
カミングアウトは、「風(FOO)」の重要な活動の一つです。最近では、茨城県社会福祉協議会からの依頼により、平成十六年度精神保健福祉研修事業「保健福祉関係者基礎研修」の講師を引き受けました。七名のユーザーが、東海村総合福祉センター、つくば市立茎崎公民館、下妻市ふるさと博物館、神栖町保健・福祉会館の四ヶ所で、各会場三名ずつ交代で発題しました。各会場約百名の参加者がありました。
発表当日、参加者から様々な質問が出されました。「精神障害者には笑顔で接した方がいいのですか」という質問が出たときは、私は思わず笑ってしまいそうになったのですが、ユーザーは真剣に応答していました。
研修会終了後、県社会福祉協議会の方から、研修会アンケート調査の結果を見せていただきました。担当者によると、この種の研修会後のアンケート回収率が九十%以上であったことは特筆すべきことだそうです。アンケートの自由記述欄には、「ユーザーの発表がわかりやすくよかった」という記述が多く見られました。もっともなかには、「発表した人たちは精神障害者とは思えない」という感想があり、ユーザーたちと顔を見合わせて笑うしかありませんでした。
つい先日も、茨城県健康科学センターにおいて行われた茨城県精神保健福祉センター主催の研修会で、私とユーザー三名が講師を引き受け、二時間の発題を行いました。各ユーザーは話しながら会場を見回す余裕もでき、「わかろうとする姿勢のある人」に視線を合わせて話しているとのことです。
支援するスタッフの立場としては、「わかってください」からもう一歩進んでいきたいところですが、茨城県の状況はそうなっていませんし、スタッフの支援も不足していると思っています。もちろん、すべてのユーザーがカミングアウトすべきであるとは決して考えていません。
Tさんの余命は、本人もスタッフも三年前からわかっていました。まだまだ活躍してもらいたかったのですが、こればかりはいたしかたありません。
「精神障害者は頭がおかしいと言われ、変な目で見られている。差別をなくしてください。」と大声で話すTさんの言葉が今でも耳に残っています。(斎藤 悟)
精神福祉コラム
カミングアウトComing-out
Coming-outを辞書でひいてみると、「@社交界デビューA同性愛者であることの公表」といったことが出てきます。@Aの意味はここでは取り上げないで、Coming-outということの意味を考えたいと思います。
今の日本で「カミングアウト」は、同性愛者のほかにも障害者、ハンセン病、HIV、在日朝鮮人、部落問題などの分野で「社会的に付与された自分についての枠組・スティグマを取り払う」こととして使われています。
人は、普段から何気なく自分自身のことや自分の身上に起こったことを他人に話しています。ところが、上に挙げたような人たちは、自ら自分の病気や出生・出身などについて話すことが「カミングアウト」という行為になることがあるのです。
特定の病気や出生・出身などが差別の対象となっているから、そのことを言いづらくなっている現状があります。「カミングアウト」することは、差別と向き合うことでもあるのです。差別という社会意識があるからこそ、「カミングアウト」は、特別な行為として位置づけられたのだと思います。
「風(FOO)」で働き始めた頃、「カミングアウト」という「言葉」を聞きました。「カミングアウト」とは、「自分自身についての自分のCome(受け入れ)があって、それからそのことのOut(外に出す)がある」のだと教わりました。Comeすること抜きにOutはないということです。精神障害と精神障害者差別を精神障害者自身がComeすることの大変さは計り知れません。
今、「カミングアウト」という言葉はインターネットの中でも盛んに使われています。今流行のインターネット上の公開日記「ブログ」自体が「カミングアウト」だという見方
があります。しかし、Come しないでOut だけをしている露出趣味のようなものであり、自らの「顔のない」Outを 「カミングアウト」と呼ぶのは間違っていると思います。(川島 麻子)
「陽(yoo)」
障害者雇用の影
今春は花を待つ心をじりじりさせるほど桜の開花が遅れたので、結果的に様々な花が一度に開きまさに百花繚乱、どこを向いても花花花の風景で顔も自然とほころぶ春となりました。その原因となった三月の寒さのピーク、四日の雪の日に、幕張での三泊四日(四日とも九時から十七時)というハードな研修に参加してきました。
研修名は、「職業リハビリテーション実践セミナー/学ぼう職リハ!企業の本音とアイディアがあなたの支援を変える/」というもので、主催は独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センターというところです。定員が発達障害コース八十名・精神障害者コース八十名・高次脳機能障害者コース四十名のところ各コースそれぞれ百十四名・百二十二名・七十四名の応募者全員を受け入れる盛況?ぶりでした。
それというのも平成十六年十月十二日に厚生労働省社会保障審議会から「今後の精神保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が公表されたからです。
その内容は、社会保障制度の財政破綻や三位一体改革路線の推進と、近未来の少子高齢化など現在の問題を踏まえて、今ある社会資源の枠組み・利用の仕方等を根底から変える法律・制度の改正案です。その実施スケジュールは平成十八年からというものです。
現場サイドでは少しでも具体的な情報を得るためにそれらしい研修会に全国から集まるわけです。でも、講義を聞いていて違和感が出てきました。それもそのはず、主催者は企業の出資で運営されているセンターだったのです。「障害者就業支援技法」も「障害者雇用の課題」も企業の視点からのものでした。「障害者雇用促進法」が一九六〇年に身体障害に始まり知的障害を取り込み、この三月の国会を改正案が通れば精神障害も仲間入りです。
講師いわく「少子高齢化時代の労働力を担うのはあなた方です。企業というのは働いてお金を稼いで何ぼのものです。施設は働ける状態に訓練して連れて来てください。それが施設職員の仕事です。障害者は勤務時間中には決して具合が悪くはなりません。アフター5に悪くなるのです。それを支える地域ネットワークを作ってください」等など。
頭の中ではチャップリンのモダンタイムズが渦巻いていました。講師の発想は、障害者の社会参加とはどうしても思えません。主催者の名称にだまされて参加した研修でしたが、社会の無理解さを再認識しました。
一方で、外国からの労働者にはとても厳しい対応を国はしています。なぜなのでしょう。労働力を企業お得意の合理的物差しで見れば、外国人のほうが絶対上なのに。
話は変わりますが、笠間・幕張間と札幌・幕張間の所要時間が約二時間でほぼ同じだとご存知でしたか?運賃は十分の一なのですが、なんだかとても疲れた研修でした。(鷺野谷まち子)
精神障害者と出合って
最初は、精神障害者施設っていうと、なんとなく結構重たい空気なとこなんじゃないかと思っていました。でもここ「陽」ではそんな感じはなかったです。
それまでの精神障害者のイメージとしては…、SF映画のせいか、「ターミネーター2」や「12モンキーズ」などのように、実は『本当』の世界を知っている、まではいかなくても独自の世界観を持っている。
芸術的には草間彌生、アウトサイダーアートと呼ばれるものなど、凄いパワー、ある種あこがれるモノを持っている。などと…。
実際に接してみると…くすりのせいか少し疲れやすい、外見的雰囲気は少しかもし出すものはあるけれど、ほとんど変わらない感じ…がします。
僕なんかよりずっと社交的ですしね。(小林 東太・陶芸家)
陶 芸 コ ラ ム
焼物の「味」
笠間と近いところに益子があります。
民芸陶器の郷として世界的に?有名で、外国からの観光客も一時は多くありました。
ご存知のように、柳 宗悦らが起こした民芸再評価運動に関わった実践者として、浜田庄治が益子に工房を建て、益子焼として作陶し世に知られるようになっています。民芸論の実践者としての自己矛盾のことはさて置き、浜田庄治の入植以前の益子焼は今では資料館でしか見ることができません。
このことは、益子だけではなく琉球焼や島根県などでも同じことです。民芸様式以前の益子焼はロクロ技術(造形)も上絵もはるかに繊細であり、私はいとおしい感じを持ちます。この陶器が独特というわけではなく、時代のなかで上質な物を目指したことが感じられ、骨董的な良さを感じました。
以前、骨董市で黒釉の味のある徳利を見つけました。産地が判らなくて尋ねると、琉球という答えが返ってきました。赤絵の物は何度か目にしていましたが、初めて見るもので忘れられた物に対する寂しさを思いました。
そんな物がまだまだ眠っているのでしょうか。(菅原 淳一・陶芸家)
子ども研
二〇〇五年度事業計画
待ち遠しかった桜も、いつしか満開を過ぎ、すっかり葉桜となりました。
子どもの問題研究所も三年目の春を迎え、活動をスタートさせています。
これまでの二年間の活動は、「子育て支援マニュアル」の作成、「子育て連続講座」の実施とその内容についての学会発表、学校教育相談現場における教育相談課題への対応、児童療育活動へのスーパーバイズ等が主な活動でした。関係機関との連携や情宣の面は不充分でした。
今年度は、研究所としての機能を明確化することと、地域への周知を図り、研究所の活動を地域に定着させることを課題とし、事業計画を立てました。
具体的には、研究事業の充実です。現在のところ、研究課題の点検を行っています。行政機関等において種々の子育て支援対策が実施されている時に当たり、行政はじめ他機関との連携を図り、研究課題に関する情報収集を行います。
今年度で三年間継続して行うことになる「子育て支援講座」の実践に基づき、昨年度に引き続き、日本病院・地域精神医学会に発表します。さらには、子育て支援の方略に関して「まとめ」を作成し、県市町村、幼稚園、保育所、関係機関へ提案します。
そのため、今年度は業務体制の見直しを図り、スタッフが業務に従事する日を週一日から週二日と増やしました。関係機関との連絡調整や情報収集、情宣にフットワーク軽く動く一方、研究所内の業務に集中できるような体制としました。
今年度計画している事業内容は、第一年目の課題の充実で、次の通りです。
A 子育て支援講座の企画・開催
※「子育て連続講座」を今年度も県内3ヶ所で開催
B 行政関係機関、幼稚園、保育所等への講師派遣
※市町村の保健センターや社会福祉協議会開設の母親教室や子育て支援研修会への講師派遣
C 子育て支援事業の実施
※現在、財団法人倶進会に助成の申請中。
事業課題は、「若い母親を対象とする『子育て支援連続講座』の実施」
D 学校教育相談・生徒指導支援活動の継続
※現在のところ、幼児療育相談活動は日立市、適応指導教室支援活動は石岡市・那珂市が対応地域
県内外児童生徒指導・支援課題対応活動は県教育研修センターに対応
以上のような事業を展開していく中で、「子育て支援マニュアル」を講座や研修会のテキストとして、有効に活用していきます。(高橋 寿子)
文化の窓
映画の紹介「誰も知らない」
制作 テレビマンユニオン 監督 是枝 弘和 二〇〇四年
この映画は、カンヌ国際映画祭で、柳楽優弥君が最優秀男優賞を受賞して初めて、日本で話題になりました。史上最年少の十四歳でした。一九八八年に東京・西巣鴨で起きた、実際の事件をモチーフにした作品です。
簡単なあらすじを紹介します。
とあるアパートに暮らす母と四人の子どもたち。母はそれぞれ父親の違う子どもたちを世間から隠すように、学校にも行かせず部屋に閉じ込めて、仕事に出かけていく。家事や弟妹の面倒は十二歳の長男・明(柳楽)の仕事だ。そんなある日、母は現金二十万円と「しばらく頼むね」という書置きを残し、姿を消してしまう。それでも明の働きで、四人きょうだいは子どもだけで生活をするが、やがてお金は底をつく。電気・水道は止められ、公園で飲み水・洗濯をする。彼らの事情を知るコンビニの店員が、賞味期限切れの弁当を裏口からこっそり調達してくれる。ある時、一番下の子が椅子から落ちて頭を打ち死んでしまう。
映画は、子どもたちの表情・声が自然体で、ドキュメンタリーのような印象を感じさせます。それだけに、子どもと大人のやりとりの言葉が、妙に耳に残ります。
学齢期をすでに迎えている二人の子が「お母さん、学校に行きたい」と何度となく言います。母親は、「学校なんか行かなくたっていいよ。お父さんがいないといじめられるよ」と簡単に片付けてしまいます。
子どもを置いて出て行く母親は、荷物を持って駅まで送る長男明に向かって言います。「何で私だけが幸せになっちゃいけないの。あんたたちの父親は勝手に出て行ったのに」と。
よく行くコンビニの店員は「役所に相談したら」と声をかけます。それに対して明は、「前に相談したことがある。相談すると四人がばらばらになっちゃう」ときっぱり言い切ります。
映画をとおして、最初は「大人が介入すべきだろう」「周囲にいる大人は何をしているの」と怒り、途中からは「子どもたちの周りに大人がいないんだ」と見えてきます。
十二歳の子どもを自分と対等にしか見られない母親、他人の暮らしに無関心な住民等、今では、めずらしいことではありません。言い換えると、「大人」という責任性の自覚が欠如している大人ばかりです。現代社会は、子どもだからといって誰もが注意・関心をもつ対象ではなくなったということです。
この映画は、「あなたは『大人』ですか」と、問いかけています。私自身が「大人」なのかと。(高島 真澄)
法人本部
「第七回 評議員会」「第十二回 理事会」を開催しました。
月 日 三月十二日(土) 午前:評議員会 午後:理事会
場 所 ホテルテラスザガーデン水戸
出席者数 評議員会 評議員十五名 理 事 会 理事六名・監事一名
【議 事 概 要】
(一)報告事項
@光風会各事業体年度末事業報告
「風」・「陽」・「子ども研」・「相談支援センター」の事業報告を行いました。
「相談支援センター」は、企業との契約による職員のメンタルヘルスに関わる事業です。個人情報の厳密な管理が必要です。今回の花信風の特集でもある個人情報保護法との整合性が指摘されました。
A光風会財務状況報告
(二)審議事項
第一号議案 「風」管理規程の改正
第二号議案 「風」就業規則の改正
第三号議案 「陽」就業規則の改正
第四号議案 「風」旅費規程の改正
第五号議案 「陽」旅費規程の改正
第六号議案 「風」防災管理規程の改正
第七号議案 「風」給与規程の改正
第八号議案 「陽」給与規程の改正
第七・八号議案で、懸案であった給与規程の改正を行い、時給ベースで年収・月収を規定することとしました。
収益を目的とする企業ではない行政や社会福祉事業等におけるボーナスの意味とはなにか。社会福祉における実績とはなにか。議論が必要です。
第九号議案 「陽」防災管理規程の制定
第十号議案 「子どもの問題研究所」
運営規程の制定
第十一号議案「相談支援センター」
運営規程の制定
第十二号議案 自家用車の職務利用
に関する取扱要綱の制定
地域生活支援センターにとって「訪問」は、重要な活動の一つです。あたりまえのことですが、その際の必需品が車です。個人の車を使用しないためには、法人として車両を所有するか、レンタカーを使用すれば問題のないことです。しかし、経費の課題、即応性の課題を考えた時、職員個人の車を使用せざるを得ない事態が起こりえます。
もちろん、この課題は「風」だけの問題ではありません。光風会各事業体が抱える課題です。運行供用者責任を考えた時、職員個人の車を使用しないことが大前提であることを確認しました。
第十三号議案 二〇〇五年度事業計画
第十四号議案 二〇〇五年度予算
厳しい財務状況であることを確認し、賛助会活動の更なる展開を図ることとしました。
第十五号議案 評議員選任
第十六号議案 役員選任
第三期評議員及び役員の名表は、下記のとおりです。
理事会において、吉田昭久を理事長に選任しました。(斎藤 悟)
もう一つの「賛助」
笠間焼工房「陽(yoo)」は、製薬会社「日本イーライリリー株式会社」北関東支店よりオカリナ150個の発注を受けました。
担当の方が「陽(yoo)」に直接出向いて来て、作品の出来具合を確認しました。今年度から、イーライリリー主催の研修会参加者に精神障害者授産施設等の作品を紹介し、地域で生活する精神障害者の活動への理解促進を図るという説明を受けました。
“特製オカリナ1個”と“花オカリナ1個”の箱詰め、一箱2,500円で販売する契約を結びました。陶炎祭が終わり次第、作陶に取り組みます。花オカリナはメンバーが手書きで花の絵を入れていくものです。150箱。現在、「陽(yoo)」では作陶意欲を高めています。
編集後記
今年度の「花信風」は、特集記事を中心に編集することとしました。
個人情報保護ばかりに目が行きますが、情報公開も大切なキーワードです。特に、皆様からの寄付や公的な資金を中心に運営している事業においては。
五月理事会で決算を審議し、茨城新聞に公告するとともに、花信風にも掲載します。また、事業報告書を作成し、皆様にお送りします。
ところで、法律って誰のために作られるのでしょうか?個人情報保護の名の下に、隠蔽が進むことを恐れています。と、偉そうなことを書きつつ、まだ法律の条文に目を通していません。憲法でさえ、まともに読んだことがないのですから推して知るべしですが。(斎藤)
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